薬師如来は、「薬師瑠璃光如来やくしるりこうにょらい」ともいわれ、
東方十恒河沙(とうほうじゅうごうがしゃ)の仏土を過ぎたところにある「浄瑠璃世界じょうるりせかい」
の仏です。恒河沙は、数の単位で10の52乗ともいわれます。
なので、東の途方もない距離にある世界ということです。
薬師如来の脇侍は日光菩薩と月光菩薩、眷属は十二神将です。
日光菩薩は、日光遍照菩薩(にっこうへんじょうぼさつ)とも呼ばれ、薬師如来に向かって右側におられ、
太陽の光を象徴しています。千もの光明で、苦しみの闇を照らしてくれます。
月光菩薩は月光遍照菩薩(げっこうへんじょうぼさつ)とも呼ばれ、薬師如来に向かって左側におられ、
月の光を象徴しています。月の明かりのような慈悲の心で、煩悩を照らしてくれます。
十二神将(じゅうにしんしょう)は、薬師如来および薬師経を信仰する者を守護するとされる十二尊の仏です。
十二支の割り当てなどでも、馴染みがあるのではないでしょうか。
薬師如来の真言は小咒と中咒(台密たいみつ)大咒があります。
【小咒しょうじゅ】
オン コロコロ センダリ マトウギ ソワカ
【中咒ちゅうじゅ】(台密たいみつ)
オン ビセイゼイ ビセイゼイ ビセイジャサンボリギャテイ ソワカ
【大咒だいじゅ】
ノウモ バギャバテイ バイセイジャ クロ ベイルリヤ ハラバ アラジャヤ タタギャタヤ アラカテイ サンミャクサンボダヤ タニヤタ オン バイセイゼイ バイセイゼイ バイセイジャサンボリギャテイ ソワカ
密教系の宗派ではよく唱えられるようです。
仏像の特徴については、右手は施無畏(せむい)の印相で、説法を聞く人々の畏れを取り除くことを表し、
左手に薬壺(やっこ)と呼ばれる薬の入った壺を持っていることが多いです。

薬師如来のご利益
薬師如来について説かれているのは、七千巻ある経典の「薬師経」ぐらいです。
それによると、薬師如来が12の本願をおこして仏のさとりを開いたことと、命を延ばす法、
九つの不慮の死を免れることなどをお釈迦様が説かれています。
12の本願
- 光明普照こうみょうふしょう ⇒ 光明で大宇宙を照らし、すべての衆生を悟らせる
- 随意成弁ずいいじょうべん ⇒ 衆生の心に合わせて、瑠璃の光をもって仏性を目覚めさせる
- 施無尽仏せむじんぶつ ⇒ 救いの手立てとして、必要な物品を全て施す
- 安立(心)大乗あんしんだいじょう ⇒ 人々を外道から正しい道へ導き、大乗へと導く
- 具戒清浄ぐかいしょうじょう ⇒ 戒律を破った場合でも、清浄の世界に還るようにする
- 諸根具足しょこんぐそく ⇒ 身体的な障碍・病気・苦痛を癒やす
- 除病安楽じゅびょうあんらく ⇒ 困窮や病苦を治癒し、生活を安定させる
- 転女得仏てんにょとくぶつ ⇒ 悟りを得るために男性へ生まれ変わり、その後仏になる
- 安心正見あんしんしょうけん ⇒ 正見できるように導き、徐々に修行を修習させる
- 苦悩解脱くのうげだつ ⇒ 災難や刑罰などの絶え間ない苦しみから解放する
- 飲食安楽おんじきあんらく ⇒ ひどい飢餓に晒された衆生の苦しみを取り除く
- 美衣満足みえまんぞく ⇒ 困窮により衣類がなく寒暑や虫刺されなど悩まされる衆生に衣類を施す
このように、第1に仏のさとりを開いてもらいたい、身体の障害や病気から救いたいなど
いろいろな苦しみから救いたいと願われて、誓われているので、
病気から救われる、命を長らえさせてくれるといい日本中で多くの信仰を集めました。

病気を治す目的
薬師如来は病気を治す仏様だと、多くの方が思われています。
ですが、それはこの世での仮の姿です。実は、本当の目的があります。
なぜかというと、病気が治って命が長らえても、死ななくなったわけではないからです。
たとえ病気が治っても、再発するかもしれません。それに病気にもしかからなかったとしても、
様々な原因で、いずれ必ず誰でも死が訪れます。
病気を治し、命を延ばすのは少しでも長く生きるためです。
だからそれは、生きる手段になります。そうしてでも、生きる目的があるのです。
薬師如来が病気を治す目的は、病気が治った人が仏教を聞き、本当の幸せになることです。
このことは、普賢菩薩の記事でも書きましたのでそちらも合わせてご覧ください。
おわりに
このように薬師如来は、人々の苦しみを取り除き、すべての人を仏のさとりまで導こうとされました。
この大宇宙には、数えきれないほどの仏がいて、そのなかの一人です。
そして、たくさんいる仏の王(諸仏の王)である阿弥陀如来がいます。
いわば、薬師如来の先生です。
薬師如来には、すべての人を根本的に救う力までは無いので、
まずは多くの人が望んでいる病気を治したいという私たちの気持ち、
これを理解して信用を深め、
最終的には薬師如来が遠く及ばない絶大なお力を持つ諸仏の王、阿弥陀如来に
苦しみや悩みの根本原因を消し去ってもらい、絶対の幸福になる。
これを勧めておられるのが、薬師如来ということになります。